ネバーエンディング

終わらない架空の日記をつけています

エディンバラの悪魔

 

 

 

 

 

 眠るときはとことん眠る人間である。夢をあまり見ない人間だとも言う。体調がどうにも優れないときに限って短期集中連載ホラーを見るのでそも夢というものに対しての印象がそこはかとなくよろしくない。病院でもらってくる風邪薬は往々にして眠くなるようにできているせいで強制的にウトウトさせられては俊敏な人喰いアンデッドの群れに追い詰められ屋上から投身自殺を図るなどというシナリオに脳を持ってゆかれる。ゾンビものは苦手だから観たことは一度もないし、だからこそセオリー丸無視の純粋な恐怖が襲い来る。起きたら汗をびっしょりかいていて背中と膝の裏側にはりついたてろてろの寝間着が気持ち悪かった。吐き気とめまいでまた布団に沈む。自分のにおいがあまりにも濃いものだから生きてんな〜といういちばん嫌な実感を得てまた微睡む。それくらいしかやることがない。

 

 ところで始まりを鮮明に覚えているわけではないけれど昔から時たま思い出したように見る夢があって、映像がないものだから夢と呼ぶにふさわしいのかどうかはよくわからないが、とにかくボンヤリと暗い中で誰かがずっと「悪魔め」と囁いている、というようなものなのだ。「悪魔め」「エディンバラの悪魔め」。呪詛だ。えらく恨みを買っているような感じがする。男だったか女だったかはいつも目が覚めたときには曖昧になってしまうし、同じ言葉を繰り返しているだけなので要領を得ない。それでも確実にずっと意識の中にそいつは一定の領域を確保していて、たとえば小説のタイトルを考えているときとかに邪魔をしてくる。カタカナ言葉を題名に含めるのをかっこいいと思っているロマンチストなのでカタカナ、カタカナ、という思考の際に必ずエディンバラというフレーズが後頭部をノックする。前頭葉かもしれない。脳科学には明るくないので知らないけれど。そうして今まであろうことかずっとそれを放置していたわけで、つい先日ふいに思い立って検索窓にエディンバラと打ち込んでみた。打ち込んでみてたいそう驚いた。実在の都市だった。内向的なうえに教養がないものだから知らなかったのだ。度肝を抜かれた。こういうときに世界の神秘みたいなものを感じるし、幽霊も人魂もアンデッドもこの世にあるんじゃないかという気になってしまう。そういう、いのちめいた超自然現象には死という概念はあるんだろうか。幽霊も人魂もアンデッドも、いつまでも終われないのだとしたらそこまで怖くないんじゃないかなあ。

 

 ネバーエンディング、と名付けたこの日記がどこまで続くのかという面白い問いを自分に突きつける。人生だって小説だって音楽だって、終わってこそ意味のあるものばかりだから終われないものは可哀想だなあと思っている。終わりくらい自分で決めたい。でもそうもいかない。皮肉にさえなりきれない架空の日記が早く終わることを願って、契約期間を終えたデバイスでぽちぽちと無為に文字を送り出している。