ネバーエンディング

終わらない架空の日記をつけています

無題

 

 

 

 

 

 物は試しでドアノブにベルトを引っ掛けてみたら驚くほど簡単につるっと滑って外れて挙句床に打ちつけられた金具が近所迷惑な音を立てた。本気でやらなくて良かった、と溜息をつく。思考力が低下しているような午前4時前のことだった。

 

 漠然とした願望はずっとあってそれが片手で足りるくらいのここ数年のあいだにブクブク膨らんでいって自分では手に負えない。だのに思い切って一歩踏み出すこともできないのだから救いようのない話だとも思う。現状を打破するすべがわからない。ただ毎日空腹でシクシク泣く胃に罪悪を感じて財布から取り出す貨幣の量に罪悪を感じて尻が占拠する椅子の面積に罪悪を感じて周囲の人間が当たり前に理解できていることを理解できないでいる自分の頭とそもそも理解しようという努力すらできずにいる自分自身に対する嫌悪が沸騰して溢れたぶんが今夜も便器にびちゃびちゃ落ちてゆくのを涙目で眺めるしかない。口内がすっぱ苦くて生きている感じがする。人間の中身の味。鼻からどろどろした夕飯の残骸が出てきたせいでくしゃみと鼻水が小一時間ずっと出ていて消費されるちり紙の量を見てまた憂鬱な気分になる。ループ。

 

 痛い思いをしたいわけでも血の繋がった人間を悲しませたいわけでも赤の他人に散々迷惑をかけたいわけでもないのだ。ただただ最初から自分のいなかった世界になってほしいと流れ星を何度怒鳴りつけても叶いっこない願いを胸に抱いている。終わりを自分で決められないのはあまりにもつらい話だ。始まりが自分の意志とは無関係のところにあったから終わりもそうであろうということかしら。だったら人間に理性なんてものを与えてくれなくても良かったのになあ。

 

 手首にカッターナイフだかカミソリだかをあてて何度も何度も切りつけた知人は自分にとって勇者そのものだから憧憬と嫉妬の入り混じった名付けようもない感情を向け続けている。一生消えないらしい傷跡が勲章みたいで眩しい。到底できやしない小心者なのでうらやましくて仕方がないのだ、そりゃあもう。ずっと綺麗事を盲目的に鵜呑みにして意味のない規則と規範にのっとり真面目に堅実に生きてきた常識人としての枠がここで邪魔をするとは思わなんだ。できることなら派手にリストでもカットしてみたかった。せめて。結局のところ、四方から壁が迫ってくるわけでもない安心安全の袋小路でうずくまっているような人生だ。いっそ三日月型のギロチンがゆっくり降ってきてくれたらいいのに。幼い頃にそんな小説を読んだ記憶があるようなないような。味付き肉をすりこんでねずみに齧らせ嚙み切らせたあのベルトは、きっと廊下に転がった税抜990円の安物なんかじゃなくてもっとずっと高価で丈夫な代物なんだろう。結末が思い出せないからまたひとつ終わりが迷子になってしまったような感じがして眠りが遠くなる。